「しょーと・ばけいしょん　出稼ぎでＧＯ！」
〜ここはホテルの番外地〜
ホテルでウルフウッドが見ちゃったナニか

１　　　　２　　omake

「ちょっとまだぁ？はやくしてよね。」
厨房から声がした。濃紺の着物にたすきがけ。髪は綺麗にアップされているが忙しかったのか、少し解れかけている。それがまた色っぽい。もともとの整った顔立ちに美しさを際立たせたメイクも上品だ。少々キツイ雰囲気も有るが美人の仲居だ。エレンディラという名だが性別は男である。
「何か冷たい物あるかしら？」
と、そこへ汗だくになったドミニクが顔を出した。ベリーダンサーさながらの露出度の高いシースルーが大半の衣装だ。顔を半分隠すようにした長い髪が艶めかしくなびけば、銀のアクセサリーが軽やかな響きを立てた。
「あーら踊り子さん。冷や水は身体に悪いわよ。それに最近ラインにしまりがなくなった御様子ね。よろしかったらシェイプアップ法、伝授して上げてもよくってよ。」
チロッとドミニクを見やり仲居が言った。すれば即座に
「あら、力仕事もこなせる仲居さん。ストレートなボディだとお着物がよくお似合いね。うらやましいわ。」
と踊り子がエレンディラに冷笑を投げ付けた。周囲に耳がキーンと痛くなるような空気が流れた。
「でかいケツじゃこういう清楚な和装は無理なのよ。」
「くやしかったらビキニ着て御覧なさいな。」
厨房に目に見えない黒雲が低い音をたてて渦巻いていた。その雰囲気を知ってか知らずか、二人の火花血走る視線の間に出刃包丁が飛び壁へ突き刺さる。投げたのは雷泥だった。
「先ほどから料理が出来上がったと申しているだろう！早く運んでもらえんかなエレンディラ殿。」
何度も声を掛けていたのだが、泥試合真っ最中の美女達（？）に無視されていた。せっかくの「トマ定食」が冷めてしまう。怒った彼が一振りすれば菜切り包丁さえも人斬り刃と化す。しかし如何せん割烹着姿では迫力に欠けていた。
「おいおい随分ぶっそうだな。」
とＳＡＸをもったミッドバレイが壁に刺さった包丁を抜き取った。その姿を見止めたエレンディラが大笑いをする。ミッドバレイは紫のスパンコールが満遍なく付いたベカベカと輝くスーツを着用していた。
「なっなにそれ！凄いセンスじゃない？」
「俺の趣味じゃないさ。」
まったく、冗談じゃないね。という意味を思いきり込めてミッドバレイは首をすくめてみせた。
「僕の趣味だよ。」
と、レガートがひとこと言ってニヤリと笑い、彼等の後ろを通り過ぎた。その場の全員が瞬時に凍りついた。宴会場ステージの彼の瞬間芸「人間ポンプ」が終わったのだろう。コインを指で弾き上げては掴み、遊びながら歩いていた。
「あ、次の出番が！」
と、ミッドバレイはそそくさとその場を離れた。
「ちょっとブルーサマーズ。いつまでこんな事してなきゃいけないのよ！」
エレンディラはレガートを追いかけて行った。
「足りないよ。おまえでは全く足りない。僕の稼ぎの前ではちっぽけ過ぎる。」
「なによっこのブッ壊れ！！本気で殺しにかかるわよー！！」
廊下から叫び声はいつまでもこだましていた。



完




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