「しょーと・ばけいしょん」

　　１　　　　２　　 omake

「で、なんでやねん。なんでこうなんねん。」
「まあ、いいじゃないですかー。御飯食べ放題ですよ。」
「そんな言い方、あさましいですわよ。」
「しっかし・・・すごいよね・・・。」
４人は通された部屋でただ呆然としていた。ジャポネスク観光ホテル「ＫＩＮＵＹＡＭＡ」。超一流のオリエンタルホテルだ。普段なら宿泊したくとも絶対に出来ないはずである。
招待を受け、その誘惑の強さはメリル＆ミリィの心を激しく揺さぶり、辞退しようとしたヴァッシュ＆ウルフウッドをも
「きっとお酒もお食事もタダですよ。」
というミリィの一言が引き止めた。

　発端はよくある事からだった。
　セコイ荒くれ共が少女を囲む様にしてイチャモンを付けている。すれ違った際にその子がぶつかったようだ。彼女は気丈にも耐えてはいるが、いつその大きな瞳から涙が零れ落ちても不思議じゃない状態だった。
それをドーナッツ状に囲んで見ている人々も、助けてやりたいがトバッチリも食らいたくない。相手はこの界隈じゃ有名な悪者で身体もデカイし銃器も持っている。自分ではどうにも出来ないのが明らかだ。だからせめて「誰か助けてやってくれよ。誰か保安官呼んでやれよ。」と願うしか出来ない。と、皆同じ事を思っていた。
「サイテーですわ。あなた方。」
人混みから１歩前へ踏み出た女がいた。その言葉はもちろん悪党に言ったのだろうが、その女性の近くにいた男性陣は「ドキッ！」とした。何もしないのを責められた気がしたからだ。彼女はショートカットで小柄だ。ただ状況を見ているだけの自分より一回り、二回りと小さい。が、度胸は反比例していると認めざるをおえなかった。その女性はメリル・ストライフという。
「なんだよぅねーちゃん。」
悪党等はその彼女を下から上へと見やり、睨み付けた。しかしメリルはそんな視線なぞものともしない。周囲に響かせるには充分な声で相手を一喝した。
「お止しなさい。子供相手に粋がって。見苦しいですわよ。」
「あー？んじゃあよー。ねーちゃんがなんとかしてくれんのかよー。」
と悪党の一人がいかにも脳味噌が足りていない口調で言う。
「おもいっクソぶつかってきやがって、こっちは痛くてたまんねーんだよ。」
泣き出しそうな女の子の１０倍は質量がありそうな大男が、これまたゴッツイ手で膝を擦っていた。痛そうにはどう考えても見えない。そいつが口元を歪めて言った。
「それともよ、ねえちゃんが慰めてくれんなら考えてやってもいいぜぇ。」
その言葉を切っ掛けにいやらしい笑いが男達から漏れ出る。その様子に彼女は溜息をもらした。
「サイテー且つ下品。どうしてあなた方のようなタイプは思考が似通っているのかしら。不思議でなりませんわ。」
「うるせーんだよ。それよかどーすんだよ。え？ねぇちゃん。」
「なんなら１晩かかって慰めてくれたって、俺らは構わないんだがなぁ。」
「・・・しかたがありませんわね。」
そう言って彼女は男達に近付き跪く。周囲にどよめきが走って女に注目し皆事の成り行きを見守った。いやらしく笑う男達もすっかり少女から気が反れ手放す。そして小生意気なこの女を、これからどうしてくれ様かと早速、手をその細い肩へかけようとした。と、同時であった。射出音と男達の声にならない呻き声。もんどり打って二人の悪党は引っ繰り返った。顔面全体に大きなバッテンの痣が出来ている。その近くには大きく十字に広がった２本のスラグ弾が転がっていた。そしていつの間にか立ちあがっていたメリルは、その小さな掌に丁度良く収まったデリンジャーを双方に付きつけていた。
「ナイス・タイミングですわ。ミリィ！」
後ろも振り返らずに言う。その声に大柄な女性が笑顔で答えた。
「先輩！間に合ってよかったです。」
そしてグルンと巨大なスタンガンを振り上げて、ガッツポーズをとった。このコンビネーションに感嘆の拍手が起こる。その中から少女に向かって走り出す年老いた男性がいた。それを見つけて緊張が解けたのか、彼女は堰を切ったように泣き出した。男はしっかりと少女を抱き寄せ無事を喜んだ。その姿を笑顔で見つつも、メリルは足元で気を失っている悪党から照準を外さない。その勇姿に男は深く頭を下げて言った。
「ありがとうございます。本当にありがとうございます。」
「いえ、いいんですのよ。それよりもこの二人を保安官へ突き出して、」
言い終わる前に新たな悲鳴が上がった。周囲に集まっていた人達を振りかざしたトマホークで薙ぎ払って、岩山を思い起させるような大男が現れた。
「子分どもに何しやがんでぃ！」
先ほど「ミリィ」と呼ばれた彼女が即座にスタンガンを向けるが手の内をすでに読まれてしまい、突き飛ばされてしまう。彼女の倒れた場所へトマホークが振り落されようとした。が、一瞬で刃が砕け散り、それで男の動きが止まってしまった。親分と呼ばれた大男の真横で、逆立てた金髪に赤いコートの男がいつの間にか銃を付きつけていた。
「ハイハーイ。狙ってますよー。撃たれたら痛いですよー。動かないでねー。」
と間延びした言い方でグリグリと硬い銃口を首の辺りに押し当てていた。その騒ぎの中、引っ繰り返っていた二人の意識がもどった。
「うぅっ・・・あー？親分。」
「痛ってぇ・・・畜生―。」
まだ衝撃のショックが残る頭を振り、気が逸れてはいるがまだデリンジャーを向けたままの女に殴りかかった。が、無駄に終わった。男の行動よりも早く、スラグ弾より遥かに巨大な十字架が後頭部を叩く。出遅れたもう一人は振り向きざまに顔面を蹴られた。顔に残るバッテン印の上に靴跡を付け再びもんどり打った。
「ええかげんにさらせ。アホんだら。」
そう言った男は黒髪にサングラス。火の点いていない煙草を咥えていた。あっという間の出来事に、野次馬達はただ口をあんぐりと開けて見ていた。
「おいっ！いったい何の騒ぎだ！」
ようやく保安官達が駆け付けた。これにて一件落着。皆がそう思った時、騒ぎの中心人物の女二人と事を更に賑わした男二人の姿は既になかった。

「やっぱ君って喧嘩っぱやいよね。あそこまでやらなくってもさ、」
呑気に赤いコートの男・ヴァッシュが言った。言われた男は振り向きざまにコートの胸座を掴み上げ
「ええかっ？余計な騒ぎに顔突っ込むな。何度言わせる気や！」
と、サングラスの男・ウルフウッドが食って掛かる。
「あまり怒らないでください。今回は私達がいけないのですから・・・。正直助かりましたわ。」
ヴァッシュを庇っているのはメリルだ。先ほどの騒ぎの発端である自覚があるようだ。隣で頷いている相方のミリィは仕事場の後輩で、ウルフウッドやヴァッシュにも見劣りしないスーパーモデル並みの長身を持つ。しかしほのぼのとした雰囲気は７人兄弟姉妹の末っ子の特徴とでも言うべきだろう。
「そうですよね。危機一髪でしたもんね。それに人助けは良いことですよ。」
「そうそう、人助け。人助け。」
二人が出してくれた助け舟にちゃっかり便乗して、ヴァッシュはコクコクと頷いた。ウルフウッドの額に小さな十字の血管が浮かんだ。騒ぎが起こった時、彼等二人は食事中だったのだ。それを中断された件もあるが、ヴァッシュが先に飛び出した為その場の支払いはウルフウッドが済ませていた。なによりもそれがムカつくウルフウッドだった。
「したらワイのサイフも助けて欲しいわ。あ？トンガリ、ワイも助けてーな。」
そう言ってヴァッシュをジリジリと追い詰める。苦笑いで「まあまあ」とヴァッシュは後ず去った。その様子に呆れたメリルがもう１艘、助け舟を出してやった。
「私の方から奢らせて下さいませんか。先ほど支局に行ったばかりですし。」
彼女等二人はその帰りにあの騒ぎに合ったのだ。ともかくその意見に乗ることに決め、ウルフウッドはとりあえず怒りを静めた。
「なんかウルフウッドさんて"騒ぐな"とか"時間がない"とか、まるで遠足を引率している先生みたいですよねっ。」
「あーホントだね。」
「そういえば、近いものを感じますわね。」
ゲラゲラ笑う３人に「乱射したろか。」とウルフウッドの考えが及んだ時、後ろから息せき切った女の子に呼び止められた。振り向くと先ほどの少女だった。走って彼等を追いかけて来たのだろう。
「あ、あの、さっきはありがとう。お祖父ちゃんが、お礼したいって・・・。」
彼女の指差したはるか後方で、ぜはぜはと息を切らした老人がヨレた走り方をしていた。

「いや、実に勇敢なお嬢さん方だ。」
そう言って女性陣の手をシッカと両手で握り、老人は敬意を表す。
「的確な判断と迅速な行動。若い頃の私のようですな。」
男性陣とは片手で握手をし、一方の手はバシバシと肩を叩いた。ガハハハと豪快に笑う姿にアハハハと戸惑い気味に笑う４人だった。
「あー申し遅れましたな。私はこういう者でして、」
と、ポケットから名刺を出した。こういう状況になれているメリルが自然と受け取った。
「御礼と言っては何ですが、御迷惑でなければ是非ともお立ち寄りください。」
その名刺を見てメリルとミリィは驚き、お互い顔を見合わせた。
「私が直接おもてなし出来ればいいのですが、あいにくこれから商談がありましてな。この孫娘に案内させますのでどうぞ御遠慮なく・・・。」
老人はにこやかに微笑んだ。
名刺には
JＡPＯＮＥＳＫ－ＨＯＴＥＬ　ＫＩＮＵＹＡＭＡ
代表取締役　社長
と肩書きが書いてあった。

　いつのまにかオリエンタルな衣装に着替えた少女に靴を脱いであがる様、指示され言う通りにする。「貴賓室」という名の特別室らしい。扉を横へスライドさせてあけると室内の意外な明るさに驚いた。鼻をくすぐる優しい香りは、床一面に引き詰められた草のカーペットからだった。木の柱は磨き上げられている。脚のやけに短いテーブルの周りに大きくて四角いクッションが置いてあった。そこへ座る様にすすめられた。なれないその雰囲気にどうしても戸惑ってしまう。が、悪くない。
「本日はようこそおいで戴きまして、誠にありがとうございます。」
両手を付き深々とお辞儀をするきちんとした挨拶に４人はつい姿勢を正す。それからグリーンティーを給仕してもらい、サービスの四角い黒くて甘い菓子を食べていると、先ほどの老人がやって来た。やはりオリエンタルな衣装を着ている。
「御待たせ致しました。先ほどは失礼しましたな。たいしたお持成しも出来ませんが、どうぞゆっくりとくつろいで下さい。このフロアは本日お客様の貸し切りとさせていただきましたので、どうぞ御自由にお使い下され。下階には他のお客様も居りますが、大浴場と娯楽施設があるのでよろしければ脚をお運びください。」
そう言うと、部屋着らしい服へ着替える様にすすめ４着分置いて行った。それをみてメリルとミリィがやたらと喜び騒いだ。
「憧れのユカタですわよ。」
「うれしいですぅ。初めてですよね。先輩！」
少女が着替えを手伝うと申し出、３人は奥の部屋へと消えた。男達は取り残され静寂が訪れた。
「・・・ウルフウッド。」
「ん？」
「お茶、もっと飲む？」
「ん。」
別世界に圧倒され他に会話が続かない二人だった。茶をすする音だけ続いた。が、しばらくすると着替え終った二人が出て来た。
「ちょっと気恥ずかしい感じもしますわ。」
「でも先輩とーっても似合ってますよ。」
いつものハツラツさはないが楚々とした雰囲気が彼女達から漂う。それが実に新鮮で良い。男達の目元も頬もつい緩む。
「二人ともよう似合うとるで。」
「ホント、カワイイよ。うん。」
正直にそう思った。
「ヴァッシュさん達は着替えないんですか？楽ですよ。」
「そうですわ。着方も覚えましたし、私達がお手伝いしますわよ。」
遠慮しようと思ったが彼女等に取り押さえられ、しまいには着ていた服をクリーニングへと出されてしまった。その４人の大人気無い様子に少女が吹き出して笑った。なんとなくバツが悪くなり観念してヴァッシュとウルフウッドは大人しく着替えることにした。しかしこれから着るユカタという服が、袖付きの大きな一枚布をオビとよばれる紐１本だけで着ると知った時にはなんとも言えない不安を感じた。しかし着てしまえばサラッとした肌触りが心地よい。帯を巻きつけただけの衣装なのに意外にしっかりとした着心地だ。
「お似合いですわ。」
「とってもカッコイイですよ。」
そう言われるとぎこちなさが薄れてしまい、悪い気はしなかった。満足げな４人を見届けると夕食の予定時間を告げ、衣服のクリーニングは明朝にこの部屋に届けると言い少女は退室した。このホテルはよい後継者に恵まれた様だ。

　ともかく食事の時間までまだ随分ある。メリルとミリィはそわそわと落ち着きが無い。とかく女性は元気だ。今時珍しいジャポネスク装飾でいっぱいの館内でもいろいろ見て歩きたいのだろう。その様子を察してヴァッシュの方から声をかけてやった。
「いいよ。行っといでよ。僕はもう少し休んでいたいからさ。」
それじゃちょっと失礼します。と二人は足取りも軽やかに出て行った。
「ワイもちょっとええか？」
「え？あ、いいけど。」
まさかウルフウッドも物見遊山したい訳でもなかろうが、部屋に残っていても退屈なだけなのだろう。

　３人を送り出し部屋は急に静かになった。ヴァッシュは一人そっと窓を開けてみた。目の高さまでの目隠し板が視界を塞いでいる。外が見えないのは部屋の雰囲気を悪までも壊さない配慮なのだろう。確かにここは外界と全く違う。ここは質素だが柔らかな温もりがあった。そしてこの部屋に漂う濃い大気がどこか懐かしい。窓辺に腰掛け見上げ空を仰ぐ。青空が見えればヴァッシュには充分だった。
「・・・たしか君もこういうの好きだったよね。レム。」
遠い昔、こういった世界もあるのだと教えてくれた人をゆっくりと懐かしく思い出していた。

　たいした時間もたたない内に青い顔をしてウルフウッドが戻ってきた。心なしか息が荒い。
「どしたの？」
ヴァッシュの質問に、２度３度口をぱくぱくし息を飲みこむ。見つめるヴァッシュの視線から逃れる様にウルフウッドは顔を逸らした。
「いや、何でもない。何でもあらへん。知らん方が、見ない方がええ事は世の中仰山あるもんや。」
どう考えても何かあったとしか思えないが、目を合わせないでウルフウッドが言うのだからよほど触れられたくないのだろう。とりあえず追求するのをヴァッシュは止めた。
「ヴァッシュさん、ウルフウッドさん！」
ちょっと曇った雰囲気を打ち消すかの如く、メリルとミリィが賑やかに帰ってきた。
「露天風呂って知ってますか？」
「え？なんだいそれ？」
「おおっここにあるんか？」
とウルフウッドが乗り出す様に聞き返した。行って見ませんか。と彼女達は誘いに来たのだ。
「嬢ちゃん達もけっこう積極的やなァ・・・。」
とウルフウッドは感慨深く思った。それを楽しみたい気もあるが、先刻ホテル館内を一人歩き見つけた、大宴会場なる広間で出くわしたものを忘れたいと思った。埃と汗と一緒にそのイヤなモノも洗い流してしまおうと、心底思っていた。

「へー。これが噂に聞くジャポネスク・アウトドアバスルームかいな。」
話には聞いた事があった。外に湯がたっぷり入った大きな浴槽があってみんなで一緒に入り、身体を洗い合うという。ただウルフウッドの記憶と少々異なる点があった。誰に聞いたか忘れたが、男女が一緒に入浴できると教えられた。大胆かつ艶っぽいパラダイスと信じていたが、今、目の前にあるパラダイスには男女別になった入り口があった。
「なんや、一緒やないんか・・・。」
「何か仰いまして？ウルフウッドさん。」
メリルがニッコリと笑って言う。きっと彼女の耳にはウルフウッドの呟きが届いたのだろう。
「何でもあらへんよー。ささっトンガリ行こかー。」
誤魔化しにヴァッシュを引っ張りこむように肩組み、男湯へと急ぐウルフウッドだった。

　脱衣所も贅沢な空間があった。共同浴場なのだから当たり前なのだが、別の客も数人いる。見知らぬ人前で服を脱ぐことに戸惑うヴァッシュだった。しかしウルフウッドは全く気にならないらしい。
「・・・案外平気なんだね。」
とヴァッシュが言った。ウルフウッドは一瞬何の事を言われているか分からなかったが、もたもたとしているヴァッシュの雰囲気で察した。
「孤児院じゃチビん頃からまとめて一斉に行水やったからな。いちいち気にしてられへんよ。」
と笑った。そうか、そういうものか。と納得つつヴァッシュは肩袖を脱いだ。
「あーコワイ人だー。」
足元で小さな男の子がヴァッシュの傷を指差し、無邪気に言った。その子の父親らしい人がパッと男の子をかばう様に追いやり
「すいません。うちの子が失礼なことを・・・。」
と何度も頭を下げ、逃げる様に出て行った。それに気がついた他の客もいそいそと身支度を整え、ヴァッシュと顔を会わさない様に出て行った。あっという間に男湯は貸切となってしまった。あまりの仕打ちに胸が締めつけられる。その辛そうな顔にウルフウッドは頭をポリッと掻きつつ辺りを見まわした。
「あ、あれとちゃうか？」
ウルフウッドの指差した壁に張り紙があった。

おことわり
身体に刺青のある方、身体に過剰の傷のある方は
御入浴の御遠慮をお願いする場合がございます。
申し訳ございませんが、何卒御了承ください。
支配人

それを呆然とヴァッシュは見ていた。
「気にせんでもええんちゃう？」
呆けた顔のヴァッシュを覗き見る。
「でも僕、入らない方がいいみたいだね。」
落ち込み気味の、それを少しでも隠す様に笑うヴァッシュがそこにいた。
「・・・せやな。どうしても自分気になるんやったら、止めといたほうが無難かもな。」
「うん。部屋に戻るよ。僕。」
「残念やったな。ほなっ。」
とウルフウッドは風呂場へいそいそと消えて行った。隣の女湯からはメリルとミリィのはしゃぐ声が聞こえて来る。
ガララーッ
「あ、貸切状態ですよ。すごいですよ先輩！」
「裸のままではしゃがないで。ミリィ。」
…大変楽しそうである。

ザバーッザバーッカコーンザザー・・・
「空を見ながらお風呂にはいるのも、なかなか気持いいものですわ。」
「風が通って気持イイですね。先輩。」
「なー。」
「あら、どこから入ったのかしら？」
「ほんとだ。黒猫ですね。洗って上げましょう。」
「なーお？」
「あ、だめですよ。逃げないで下さい。」
「ミリィ！お止しなさい。あ、そっちへ行っちゃダメですわよ。」
「何しとんのや、嬢ちゃん達は。」
「キャー！！キャー！！キャー！！」
「なーー！」
「うおっ！」
ドボーン…
「・・・っんぷぁっ！猫投げたらアカンやろ！！」
「なーなーなーなーなー」
「衝立てよじ登ってまで覗く方がどうかしてますわよっ！」
「そうです。スケベェですーぅ。」

声だけでその様子を想像すると、参加出来ない寂しさもヒトシオだ。
しょんぼりと肩を落としてトボトボと部屋へ戻るヴァッシュだった。

「ちょっと考えればさァ、他の人って結局みんな出て行っちゃったんだし、僕が別に居たって構わなかったんじゃないのかなぁー。」
一人寂しく部屋の狭い風呂でブチブチと文句を言ってみた。
「ウルフウッドもウルフウッドだよね。「ほなっ。」とか言っちゃってさ。なんだよ、みんなして楽しそうにしてさ・・・。」
部屋風呂の中で暗雲が渦巻き、悪鬼と化す寸前になっていた。

気が付けば子供地味た文句を言っている自分が、ちょっとだけ嫌になったヴァッシュだった。

続く

戻る