映画公開記念
『感激とツッコミの間で妄想を叫ぶ』

「めずらしくいいヤツ持ってるね。」
コーヒーを一杯飲む間に、もう何本目になるのか。
ウルフウッドは銀色のオイルライターで新しく咥えた煙草に火をつけていた。
テーブルの上に数本の吸殻に灰だらけの灰皿。その隣には飲みかけのコーヒー。
そして先ほどまで彼が読んでいた新聞があった。彼は煙草をふかしつつコーヒーを飲み飲み新聞を読んでいたのだ。
ちなみにヴァッシュの前にはコーヒーと期間限定ドーナッツの三点盛りを乗せた皿がある。
うまうまっ♪と半分食べた頃ヴァッシュは「そういえば、」とウルフウッドに話かけたのだ。

「いつも無料で貰えるマッチ使っていたじゃない？趣旨変え？」
「ああ、コレか。」
パチンと小気味良い音を立ててライターの蓋を閉じ、ウルフウッドは自慢げに
「えぇやろー。２個目なんや〜」と見せびらかした。

確かに良い品だった。
派手なデザインではないが傷もなくピカピカに輝いて、シンプルながらも重厚感がある。

「どうしたの？買…うワケないよな。２つも。君が。」

ちょっと持たせてもらおうかとヴァッシュはライターに手を伸ばすが、お前にはやらん。と言うが如くサッと胸ポッケにしまい、ウルフウッドはますます得意気に言った。
「ま、お布施みたいなモンやな。毎日毎晩真面目ェに神様にお使えしとるから、天からの御褒美？ちうか神のおぼし召しやな。ほんまにええモンもろたで。」
「へぇー。今ドキ律儀な人もいるんだねぇ。熱心な信者さんかなぁ？」
「おぅ！誰かは知らんけど、さっきな。」
「さっき？」

『さっき』という時間帯とおぼしき記憶を巻き戻してみるが、ウルフウッドにそんなタイミングがあっただろうか？
ウルフウッドはモワワンと満足気に煙を吐き出しニヤリと笑った。

「さっきな。そこに落ちとった。」

ウルフウッドが指差す「そこ」とは隣のテーブルだった。
食べ散らかされた食器があるだけで、客はもういない。

「きっ…そっ…わっ…おき…」
「きそわおき？」

あまりの事に言葉にならなかったヴァッシュの「君、それ、忘れ物、置き引きか」というツッコミにウルフウッドがのん気に聞き返してきた。

ゴクンと一息置いたヴァッシュががなり立てる。

「ダメだろっ！それは人様の忘れ物でしょーが！何？何？まさか君いつもそんな事してンの？何してんだよ聖職者のくせにハタ迷惑でいいかげんな事してさっ！」
「なんやてゴラ。ワイの事『迷惑』言うたか？『いいかげん』言うたか？あぁん？」

わめいたヴァッシュにウルフウッドは地の底から湧くようなドスの効いた声で応えた。

「言わせてもらうが『迷惑』なんはオドレやろ？！あちこち何でも首突っ込みおってからに。『いいかげん』なんもおどれや。二十年前ガスバックに会っとったって？何やそれ？オドレの年ナンボや？あ？嘘つかず正直に言うてみ！」
ウルフウッドの怒りの問い掛けにヴァッシュはシュワっと爽やかに答えた。

「永遠の青春真っ只中♪ピチピチ純粋なボクは十八歳さ！」

バチーン☆とウィンクをキメたヴァッシュにバチーン★とウルフウッドのパンチが決まる。

「ダにずんだよっ！目にパンチは反ソっぐっつっ！」

「オドレの何もかもが気に食わんっ！ボケカスド腐れエセ十八歳っ！」

ウルフウッドの速攻サバオリ瞬殺首羽交い絞めがヴァッシュを襲う。
二人がいたテーブルも引っ繰り返ってしまったが、ヴァッシュはしっかり残りのドーナッツ１個半を両手で捕獲していた。が両手が塞がっているので反撃どころか逃げる事も出来ない。
顔を赤く青く白く黄色くしながらヴァッシュは何か訴えているようだが、ウルフウッドは聞く耳を持っていなかった。

そんな騒ぎからちょっと離れたテーブルで保険屋コンビはティータイムを楽しんでいた。

「まったくもうー。あのお二人は何をなさっているのやら…。」

相変わらずのバカ騒ぎは見る気も失せるが、見張らねばならない現実にため息が出るメリルだった。

「でも先輩。いつも通りですよぅ。いつも通りなら何でもなんとかなってますし。」

屈託無く朗らかに笑うミリィの意見ももっともだと、メリルも笑わざるをおえない。

二人はお互いにウィンクで気持ちを通じ合い、チョコレートサンデーでカチンと乾杯をきめた。

終